蓮舫さんの戸籍開示について

あんまり政治系のニュースにコミットしている訳ではないのだけど、ちょっと気になったので自分の考えを残しておきたい。自分の考えをまとめると、二重国籍にあるものが総理大臣になるのはプリンシパル=エージェント関係における利益相反行為への疑念を生じさせるので望ましくないというもの。

自分の考え

プリンシパル=エージェント関係の詳細にについてはWikipediaを参照のこと。簡単に言うと、AがBに仕事を依頼する場合において、BはAの利益になるように行動しなければならないのに、AがBの行動の全てを監視する訳にはいかないため、BがAの利益よりも自分の利益を優先させてしまうこと。

プリンシパル=エージェント関係とは、行為主体Aが、自らの利益のための労務の実施を、他の行為主体Bに委任すること。このとき、行為主体Aをプリンシパル、行為主体Bをエージェントと呼ぶ。

https://ja.wikipedia.org/wiki/プリンシパル=エージェント理論

プリンシパル=エージェント関係にいくつかのパターンが考えられる。


1つ目はBに何かの分野の専門知識があってAにはない場合で、具体例としては弁護士に弁護を依頼するとか、会計士に会計監査を依頼するといった場合がある。この場合は仮にAがBの行為の全てを監視できたとしても専門知識のなさがゆえに、Bが利益相反行為を行っていたとしてもそれを発見することができない。また、Bの利益相反行為を発見するためにAが専門知識を身につけるというのは解決策にならない。なぜなら、そもそもAがBに仕事を依頼する動機はAとBの間にある専門知識の差にあるので、AがBの利益相反行為を発見できるほどの専門知識を身につけた場合にはAはBに仕事を依頼する動機がなくなり、プリンシパル=エージェント関係が発生しなくなるためである。


2つ目は何か大きな仕事をしているAが、その仕事を分割してBに依頼する場合である。通常の会社組織において、上司が部下に仕事を命令するといった例はこの場合に該当する。この場合、Aは一人でBは多数となり、Aが100%監視できるのはBの内の誰か一人の行動であり監視されているB以外のBが少々仕事をサボって、自分の利益を満たしたとしてもそれを発見することは難しい。


3つ目はAが多数でBが少数の場合で、具体例としては多数の株主の利益を代表して社長が業務を執行する場合や、多数の国民の利益を代表する国家といった場合がある。この場合、多数のAの利益の寄せ集めてBに仕事を依頼するという状況になるため、Aの多数さによってAの利益の集合は非常に巨大なものとなる。*1


私の国家観では、国家とは国民の生命・財産を守るために国民から委託を受けて業務を遂行している組織という理解になる*2。国家は国民から委託を受けてはいるが、その業務の遂行の全てを監視されてはおらず、そこに国民の利益よりも自己の利益を追求しようとし易い隙がある。従って、国家は、あるいは国家の代表としての総理大臣は、国民から委託を受けた業務を忠実に遂行しているのか、忠実に遂行する意思があるのか常に疑われることになる。


二重国籍を持っている人が総理大臣になった場合、その人がもうひとつの国籍国に持つ土地の価値を高めるために日本人の利益にはならない外国への援助をするかもしれない。親近感を持つもうひとつの国籍国のために業務の委託を受けているはずの日本人の利益には結びつかない行為をするかもしれない。このような疑問は、プリンシパル=エージェント関係における必然的な疑問であって、特に差別的という認識はない。


二重国籍であることがイコール、国を代表する総理大臣としての的確性が0%になるとは思わないけれど、自分の中の基準では10数%くらいは低下させている。蓮舫さんが二重国籍状態であった期間があること以上の総理大臣にしたいと思わせる魅力があるのであればいいのだけど、今のところ、そのような魅力は感じていない。



他記事への感想

そのような批判は、「国益」を盾に国家機密の漏えいや二国間の利害が対立した際の判断が誤る可能性を説き、なかには「スパイ」呼ばわりするような声さえあった。だが、先に述べたような背景があり、またグローバル化が進んだ現在、国籍と忠誠心とをイコールで結ぶのはそう簡単なことではない。また本物のスパイだったら書類や証明書の偽造などは朝飯前であり、必要であれば「○○人」に簡単に偽装できるだろう。国籍を忠誠心の源のようにとらえるのは、古くて硬直的な、また言い方を変えれば「お花畑」的な国籍観だと言えなくもない。

https://news.yahoo.co.jp/byline/hantonghyon/20170712-00073199/

この段落の前半はほぼ私の考えである。二国間の利益が対立したときに、本当に日本の利益を代表できるのかという点が疑問。その根拠に、プリンシパル=エージェント関係を持ってきているものを見たことがなかったので今回この記事を書いてみた。だた、この段落の反論は、二国間の利益が対立したときにも問題なく日本人の利益を代表するという反論ではなく、なかには「スパイ」呼ばわり・・・などと極端な例をだして、その極端な例を批判するという典型的なわら人形論法になっている。スパイだったらどうなのかなどどうでもいいので、利害が対立したときの判断をどうして誤らないといえるのかで反論してほしかった。
国籍と忠誠心がイコールで結ぶのは簡単ではないというのは確かにそのとおり。必ずしも判断を誤るとはいえない。これだけで総理大臣として不適格とは言わない。でも、私は減点対象とはしている。


蓮舫氏が今、行おう/行わされようとしているのは、「忠誠の誓い」だと思う。日本国に対する、「忠誠の誓い」。
それは、「国籍」の証明をもって行われるとされている。

http://hibi.hatenadiary.jp/entry/2017/07/12/001647

「忠誠の誓い」と括弧をつけて、これがろくでもないものだと印象付けようとしているが、利益相反行為が行われやすいプリンシパル=エージェント関係において、委託された業務を忠実に遂行する意思があるのかの確認は非常に重要。「日本国に対する、「忠誠の誓い」」が、日本ともうひとつの国籍国との間で利害の対立が起こったときに、本当に日本人の利益を代表するつもりがあるのかの確認という意味であれば、それを行って何が悪いのかとしか思わない。国籍が直接は業務への忠実さを意味しないというのは確かにそうだが、そもそも直接確認する方法などないのであってどうしても間接的な確認の方法になってしまう。*3


この段落の後の、血の証明云々に関しては、さっぱり意味が分からなかったし、「国民ファースト」を悪い意味で使っているようだが、国家が国民ファーストでなくて、何ファーストであればいいのか。かなり、根本的な国家観が違っていそう。

んー。この判断はどうなんだ。立候補の際に選管に戸籍は提出しているわけで、現在、彼女が日本人であることに何の疑いもないわけで、それ以上、何が必要だというのだろう。

http://b.hatena.ne.jp/entry/341642768/comment/nabeteru1Q78

選挙管理委員に戸籍を提出しているので問題ないという主張をしているのはこの人だけじゃないけど、スターがたくさん集まっていたので。私は、日本人であるのかどうかを問題視しているのではなくて、利益相反行為が生じやすい二重国籍を問題視しているのでその指摘はあたらない。


私は、蓮舫氏であれ誰であれ、手続の失念などにより二重国籍状態のまま国会議員になった人がいたとしても、騒ぐような問題ではないという考えだ。

http://miurayoshitaka.hatenablog.com/entry/2017/07/11/戸籍を公開する蓮舫氏に期待したいこと

この人の考えとして、二重国籍は問題ではないというのは、私とは意見が違いますねというだけではある。ただこの後、二重国籍は重要ではないという筆者の考えが、客観的な事実として語られていくのは、ちょっと文章の書き方として狡さを感じた。「このような軽微な違法をことさらに重大視して」「些末な事項について政治家が執拗に説明を要求される事例には・・・」など。




















シグナリング効果」

シグナリングとは、市場において、情報の非対称性を伴った場合、私的情報を保有している者が、情報を持たない側に情報を開示するような行動をとるというミクロ経済学における概念である。
この概念は2001年にノーベル経済学賞を受賞したマイケル・スペンスによってはじめて分析され、高等教育が労働者の生産性に何ら影響を及ぼさないとしても、企業がその労働者に対して、高賃金を支払うことは合理的であることを示した。

https://ja.wikipedia.org/wiki/シグナリング

この「シグナリング効果」を戸籍開示に適用するなら、日本国民から委託された、日本人の生命と財産を守るという業務に対して忠実に遂行するつもりがあるのかというのは、外部から確認することができない、本人だけが分かる私的情報である。おそらく、労働市場における自分の有能さを証明するシグナルとしての学歴と似たようなもので、客観的に自分の業務への忠実さを証明するシグナルとして戸籍を使おうとしていると理解できるのだろう。*4

*1:この場合、AがBを監視できない理由が思いついていない。会社の場合は、競合他社に詳細な状況を知られることが会社の業績の悪化につながりその結果Aの利益を損なうので、株を買った以上多少の秘密が生じることは避けられず、その秘密の中で利益相反行為が行われる懸念はあるが、これを国家にまで適用できるか考えが足りていない。

*2:たぶんこの国家観はホッブズ的。ホッブズプリンシパル=エージェント関係から捉えてみると何か面白い考えが浮かぶかもしれない。

*3:確か、何かの本に従業員の面接に、業務の遂行能力の高さを直接証明するものではない学歴というものが使われるのかに関して記述があったはず。後で探す。

*4:関連はありそうだけど、考察が足りていない。